JJUG ナイトセミナーで Reactive Streams について発表しました

6月24日の JJUG ナイトセミナーで「Reactive Streams 入門」のタイトルで発表させて頂きました。最近話題の Reactive Programming、気がついたら一万人以上が署名している Reactive Manifesto、そして Java 9 で標準化という話が進んでいる Reactive Streams をまとめて俯瞰してみました、という感じの内容になっています。

かなり戦々恐々だったのですが、思いのほかご好評をいただきとてもとてもほっとしています。発表の機会を与えて下さった JJUG スタッフの皆様、会場をご提供頂いたオラクル様、発表を聴いてくださった参加者の方々、ありがとうございました。

発表でも触れましたが、"Reactive" という概念が何を指すかについては大きな混乱があり、様々な論者が異なる定義を提唱しているのが現状です。一方で、そうした定義の背景には、それぞれに体系的な知見や学術的な議論の積み上げがあるのも確かで、その辺をちゃんと掘り下げた解説を書いてみたいなぁ、と思っていました。

そんなわけで、この半年ほど継続的に資料を収集したり、V2 にアップデートされた Reactive Manifesto の翻訳をやったりしていました。構成については、記事を書くことを念頭に以前からぼんやりと考えてはいたのですが、今回の発表準備にあたって参考にした、英語版 Wikipedia「データフローを記述する宣言的なプログラミングモデル」「その実行モデルを実装したランタイム」という定義を軸に据えると、Reactive の名を冠した要素技術群をそこそこ総括的に整理できるのではないか、と考えて作ったのがこのスライドになります。

このテーマについては、まだまだ考えるべきことも多そうですし、今後も継続的に研究していきたいと思っています。改めて、今回は貴重な機会を頂きありがとうございました。

余談1

たしかに、次に使う個数を書いたモノを前工程に送るのって、完全にカンバンだなぁ。日本の製造業のプラクティスがまた世界を変えてしまった(違う。

余談2

今回の発表では、Reactive Programming のような非同期プログラミングについて、私が最近考えている『プログラミングモデルについての議論は概ね決着がついていて、焦点は「いかに高機能なランタイムを提供するか」という所に移りつつあるのではないか』という話を入れてみましたが、さて、実際のところどうなんでしょうか…。みなさんはどう思われますか?

これはずっとそうだと思うのですが、特に昨今、UI プログラミングやマイクロサービスといった文脈で非同期プログラミングの需要が高まる中でも、「非同期を同期的な文法で書きたい」というニーズは非常に根強いものがあります。

しかし、以前に「マイクロサービスが Scala を選ぶ3つの理由」という記事でも書いたように、特に分散システムの文脈では(有名な「分散コンピューティングの落とし穴」が述べるように)、レイテンシや処理の失敗、ネットワークの不安定性、あるいはそれを補うための運用監視といった話題は無視できません。過去に、「同期的な文法で非同期プログラミングができる」というコンセプトを打ち出したプログラミングモデルが大体失敗に終わったのは、そういった事情でしょう。

そう考えると、「同期プログラミングにとっての異物」をプログラマの目から隠してしまうのではなく、少し考え方を変えて明示的に扱った方が、最終的には幸せになれる気がしてきます。そして、Future/Promise や(Rx の)Observable のような関数型インタフェースは、非同期な実行モデルに基づくデータフローを記述する上で、優れた抽象化を提供してくれます。Reactive Programming が、多くの場合で関数型 Reactive Programming (FRP) の同義語として扱われるのは、そうした抽象化がもたらす利便性が大きな理由でしょう。

そんなわけで、本来であれば、近年の Reactive Programming の実践は「関数型プログラミング」と極めて密接な関係があります。しかし、今回は大前提として Java ユーザの方に向けた発表なので、そういった話題は基本的に除外することを心がけました。実際、スライドを見ていただければお分かりになると思いますが、「関数型とは何か」という議論に立ち入らなくても Reactive Programming を理解し活用することは可能です。

一方で、これらのライブラリをより効果的に活用したいと望むなら、関数型の考え方を調べておくと非常に役立ちます。この手の話に関心がある方は、以前このブログで書いた「関数型プログラマのための Rx 入門」シリーズをご覧になってみてください。