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世界最小級のキーボード The Planck Keyboard を作ってみた

海外の自作キーボード (DIY keyboard) コミュニティで生まれ、近年は日本でもすっかり有名になった ErgoDox ですが、その ErgoDox と並ぶ人気を誇る “The Planck Keyboard”DIY キットを手に入れて組み立ててみました。

どれくらい人気かというと、現在募集中の共同購入(後述)には開始から一週間で世界中から 1,700 件を超える応募があり、新しいカスタムキーキャップのメニューには大抵 Planck 専用セットが用意されるくらい。

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過去の記事でも紹介してきた通り、僕は ErgoDox EZ キーボードを使っています。ErgoDox には大変満足していますが、一方でそれなりに細かい不満があるのも確かです。

ただ、普段使いの道具に対するこだわりというものは、突き詰めていくと極めて個人的なモノにならざるを得ません。必然的に、自分が真に求めるものと、汎用性への目配りが必要な完成品 *1 との間には埋めがたい齟齬が出てきます。

そんなわけで、将来的に自作キーボードの制作に手を出していくことを想定して、比較的に制作が簡単で入手の容易なコレを一個作ってみようと思った次第。噂の “40% keyboard” を試してもみたかったし。

あとは、少し電子工作っぽいことをやってみたかったのもあります。IoT だなんだと言っているこのご時世に、物理レイヤから距離を取って出来合いのソフトウェアスタックの世界に引きこもっているのも如何なものかと思っていたので、少し自分の芸風を広げてみましょうと。

で、はんだ付けと聞くと一気に敷居が高く聞こえると思いますが、実際はきちんとした道具を揃えればそんなに難しくないですね。この記事では、はんだ付けの道具の揃え方やコツなどについても紹介していこうと思います。

Planck キーボードとは?

Planck は Jack Humbert 氏が開発・販売している DIY キーボードキットです。ErgoDox 使いには QMK firmware の作者と紹介するのが通りがいいでしょうか。いわゆる 40% keyboard プロジェクトの代表格で、その特異な格子状のキートップとミニマルな外観で有名です。姉妹プロジェクトに、サイズ違いの Preonic というものもあります。

www.youtube.com

Planck の特徴は公式サイトの “a DIY compact 40% ortholinear keyboard” という紹介で言い尽くされてますが、一つずつ見ていきましょう。以下、画像は氏が制作した販促ポスターより。

“ortholinear”

Planck はキーを格子状に配置するレイアウトになっています。“ortholinear” はこのようなキー配置を指す Jack さんの造語で、Planck キーボードの最大の特徴となっています。

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一見すると奇抜に感じますが、そもそも論として「一般的なキーボードのキーが互い違い (staggered) に配置されてるのは、かつてのタイプライターの機構上の都合 *2 でしかない」ということらしい。実際、格子状の配置とすることでレイアウトが左右対称になりフットプリントを最小に抑えられるわけで、なかなか興味深いコンセプトと言えます。

“compact 40%”

お気付きかと思いますが、Planck にはキーが 47~48 個しかありません。これは通常のキーボードの約 40 % で、特に数字キーの列が影も形もありません。これは、主要なキーをホームポジションの隣のみに限定することで、指の移動 (finger travel) を最小限にすることを狙った配置になっているからです。

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けれど、76 キーの ErgoDox でさえ「右側のキーが足りない」という声が聞かれるくらいなのに、こんなにバッサリと削ってしまっては実用に耐えないのでは?

心配ご無用。最下段のスペースキーの隣にある “Raise”“Lower” はファンクション (Fn) キーになっていて、これと組み合わせればホームポジションを崩さずに物理キーの2倍以上のキーにアクセスできます。二つの Fn キーが親指位置に置かれているのもポイントで、直線的でエルゴノミクス性をガン無視しているかのような外観なのに、実は「親指活用」を重視したキーボードなのです。

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DIY

ErgoDox と同様に、自分でプログラムした QMK firmware を書き込むことでキー割り当てを自分好みにカスタマイズできます。また、LED の取り付けに対応しているので、バックライト仕様に変更してファームウェアで光り方を制御できます。あと、基板にスピーカーが組み込まれているので、キーボードで音楽を演奏するなんてことも可能。

www.youtube.com

購入方法

3/26 現在、Massdrop で DIY キットの共同購入 (group buy) を実施中です。海外からの輸入になりますが、販売者や工場との間に Massdrop が入ってくれるので比較的安心ですし、日本への配送も問題なく行ってくれます。締め切りが3月末なのであと一週間もないですが、必要なパーツがまとめて安く揃う貴重な機会なので興味のある方はお見逃しなく(次の募集はおそらく三か月~半年後かと)。

www.massdrop.com

いろいろなオプションがありますが、Plate は MX compatible、Switch は純正の Cherry MX か互換品の Gateron を選んでおくのが無難でしょう(Matias スイッチを買ってもいいですが、カスタムキーキャップの入手性が低いのでお勧めしません)。軸色による押下感の違いはこちらの記事が参考になります。

また、キーキャップについては、同時開催の別枠の drop で文字入りのセットが安価に提供されています。

www.massdrop.com

今回は、昨年末に作者のサイトから直接購入したものを使いました。現時点では、Massdrop に出品されているものより古いバージョンの plate しか買えないようなので注意。

olkb.com

また、キーキャップとスイッチは OLKB では Matias スイッチしか提供してない ので、Cherry 互換を使いたい場合は別に調達する必要があります。スイッチは日本でも純正の Cherry MX スイッチを売ってくれる所がありますが、意外にも一番手に入れにくいのはキーキャップです。これらの入手方法については以前の ErgoDox の記事を参考にしてください。

道具を揃える

前述のとおり、Planck は DIY キットなので基本的に完成品の販売はありません。とはいえ、必要な部品は全て加工済みで売ってくれるし、組み立ても簡単なので苦労する所はほぼないです。唯一の問題は、基板にキースイッチを取り付けるのにはんだ付けが必要なところで、そこを敷居が高いと感じる人も多いでしょう。

ただ、今回やってみたところ「まともな道具さえ揃えれば非常に簡単」という感想でした。最低限、以下のものがあればいいでしょう:

  • 糸はんだ(すず 60%/鉛 40%、Φ 0.8~1.0 mm、やに入り)
  • はんだごて(温度調整機能付き)と 2C 型のこて先
  • こて台(簡易型ではない重いやつ)
  • クリーニングワイヤ(こて台に付属している場合もある)
  • 工作マット(机を汚れや高温から保護する)

この中で特に重要なのがはんだごてです。千円以下で買える安いものもありますが、断然「温度調整機能付き」のものをお勧めします。少し値が張るものの、作業のやり易さとはんだの品質が天と地ほど違います。学校で安いはんだごてで実習をやらされてトラウマになってる人も多かろうと思いますが、能力不足は全てカネが解決します。ぜひお試しあれ。

白光 ダイヤル式温度制御はんだこて FX600

白光 ダイヤル式温度制御はんだこて FX600

また、はんだごてを買うと標準で付いてくる円錐形のこて先(B 型)は実は使いにくいので、別途 2C (or 3C) 型 *3 のこて先を入手して付け替えましょう。C 型のこて先の特徴については以下のページなど:

はんだは、あまり太いと融けにくいので Φ 0.8 mm 程度が良いようです。環境に優しい「無鉛はんだ」というものが売っていると思いますが、融点が高くて扱いにくいので初心者はやめておいた方が無難。

こて台は、ひっくり返ってケガをしないように重いやつにしましょう。また、こて先を掃除するために水を含ませたスポンジを使うのが一般的ですが、温度調整機能付きのこてを使う場合は温度が下がらないようにクリーニングワイヤを使う方が良いようです。こて台とセットの製品があるので、入手できるならそれを。

購入方法ですが、この辺の道具はホームセンターや家電量販店では品揃えが悪く、困った時の Amazon もイマイチだったので、ヨドバシドットコムで買うのが一番早いと思います。ブランドは HAKKO(白光)と goot(太洋電機産業)がメジャーみたいなので好きな方を。今回は基本的に HAKKO 製で統一しました。

組み立てる

組み立て方については、基本的には公式サイトのドキュメントを熟読してください。ここでは、作業の進め方のイメージ作りの一助として、僕が実際にやった作業を簡単に紹介します。

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概要

以下の手順で組み立てていきます:

  1. 基板の動作確認
  2. プレートにキースイッチを組み込む
  3. スイッチを基板にはんだ付けする
  4. スイッチの動作確認
  5. 基板をケースに取り付けてキーキャップをはめる
  6. 完成!

1. 基板の動作確認

組み立て終わっていざ電源投入したら認識しませんでした…は悲しすぎるので、念のために動作確認しておきましょう。基板には初期ファームウェアが書き込まれているので、PC に USB ケーブルで接続すれば認識してくれます。成功すれば、表面に実装された LED が緑に点灯してスピーカーからビープ音が出るはずです。

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2. キースイッチの組み込み

次にキースイッチをプレートに取り付けていきますが、公式の手順ではまず数個だけ取り付けて確認することを推奨しています。スイッチを取り付けた後に基板を裏からはめてケースに納めてみて、基板の向きが正しいこと、スイッチのピンが基板の穴からまっすぐ出ていることを確認しましょう。

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確認が終わったらケースから取り出し、残りのスイッチを全てプレートにはめ込みます。

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全てはめ込んだら、基板をプレート側へ軽く押し込み、全てのピンが基板の穴から同じ長さだけ飛び出していることを確認しましょう。ピンを曲げてしまわないように注意。

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3. スイッチのはんだ付け

さァ、一番楽しいスーパーはんだ付けタイムです。安全にはくれぐれも気を付けましょう。例えば、こての電気コードを蹴っ飛ばす等の事故を起こさないように、コードの長さには余裕を持ち、作業机の周りはよく整頓しておきましょう。あと、煙は有害物質なのできちんと換気しましょう。

こての温度は 340~360 ℃に調節するのが良いようです。これより高くても低くても良くありません。以下の動画のように、こて先をスイッチのピンとランド(基板の金色の部分)に押し当てて何秒か加熱したら、はんだをピンとランドの間へ送り込みます。この際、量は多くても少なくても良くないとか…。

注意点は、「はんだをこて先へ直接押し付けない」「こて先との接触面積が大きいほど熱を伝えやすい」の二点です。もし C 型のこて先を使っているなら、こて先の面の部分を加熱する部分に押し当てて使うことになります。また、こて先に黒い汚れが付着してきたらワイヤーにグサグサ刺して拭き取りましょう。

www.youtube.com

その他のはんだ付けのコツについては、色々なサイトで紹介されているので探してみてください。まぁ、十年こてを触ってなかった僕でも何とかなったので、あまり細かいことを気にする必要はないかも。それよりも、繰り返しになりますが安全に気を使ってください。

www.ipros.jp

4. スイッチの動作確認

はんだ付けが終わったら PC に繋いでスイッチの動作をテストしてみましょう。

5. ケースに取り付ける

動作確認が済んだら、プレートと基板をケースにねじ止めします。

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あとは好きなキーキャップをはめて完成!

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ファームウェアのカスタマイズ

現時点ではファームウェアの書き換えまではやれていないので、書き換え手順を示したページだけご紹介します(Easy AVR は GUIファームウェアをカスタマイズできるソフトなのかな)。

www.reddit.com

また、ErgoDox EZ と同じ QMK firmware を使うので、ビルド方法については下記の記事が参考になると思います:

okapies.hateblo.jp

まとめ

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QMK firmware対応キーボードを見たことがある人は分かると思いますが、DIY キーボードコミュニティでは、Planck 以外にも実に様々なプロジェクトが活動しています。この記事が、自作キーボードに関心を持つ人が一歩を踏み出す助けになれば幸いです。

実は、キット自体は昨年末に発注していて1月には届いていたんだけど、道具の入手や場所の確保はどうしようか…と色々と悩んでいるうちにズルズルと時が過ぎ、完成までだいぶ時間がかかってしまったのでした。今回、電子工作の初歩中の初歩的な内容とはいえ、実際にキーボードを一つ組み上げたことでだいぶ自信がつきました。次は、「左右分割型 Planck」とも言える Let’s Split に手を出してみようかと思案中(4月中旬に在庫が復活するらしい)。

riv-mk.hateblo.jp

*1:たとえ、それがどんなに「尖った」製品であろうと同じことです。

*2:上下が同じ位置にキーを重ねるとローラー部へハンマーが通せないから。

*3:他にも太さによって 1C, 4C, … というバリエーションもある。4C だと太すぎるかも。