「裏のニコニコ超会議」に行ってみた
GW中の皆さん、休暇をいかがお過ごしだろうか? え、ずっと仕事? それはご愁傷様…。
さて、我々(オタク)にとってGW期間中のビッグイベントといえば、4/29~30 に幕張メッセで開催された「ニコニコ超会議」だろう。今年も 15 万人越を動員して大盛況だったようで、今年は僕も久々に顔を出して知り合いやマストドン本の関係者に挨拶して回ったりしていたけれど、相変わらずのカオスな活気だった。
しかし、その盛況の陰で「裏のニコニコ超会議」とも言える音楽フェスが開催されていたことをあなたはご存じだろうか? ずばり、その名を Electric Daisy Carnival Japan (EDC Japan) という…。
「裏」って?
まぁ、こういうことです:
そう、正真正銘、超会議の裏が会場なのだ。期間も全く同じなので、超会議でオタクや中高生がワイワイやってる隣で、パリピの皆さんがウェイウェイやっていたというわけ。
その結果としてこんな光景も見られた:
刺青入れたパリピのカップルの隣でサーバルちゃんコスの女の子が携帯いじってる。
— Yuta Okamoto (@okapies) 2017年4月30日
EDC って?
EDC は、EDM というこの十年くらい世界的に流行しているダンスミュージックをかける DJ イベント、いわゆる EDM フェスのうちでは最大級のイベントで、世界三大フェスの一つと呼ばれているらしい。規模も桁違いで、ウン十万人分のチケットが一瞬で売り切れることも珍しくない。これまで三大フェス (Ultra Music Festival, Tomorrowland, EDC) のうち、日本で開催されていたのは Ultra Japan だけだったんだけど、今回 EDC が初来日したのだ。
japan.electricdaisycarnival.com
元々、僕は BEMANI がきっかけで電子音楽を聞くようになって、自然と流行りのジャンルである EDM にも触手を伸ばすようになり、そうした楽曲の主なパフォーマンスの場である EDM フェスにも興味があった。まぁ、僕は基本的にお祭り騒ぎを見るのが好きなので。
とはいえ、正直なところ、海外のフェスに関しては治安が悪いしドラッグが蔓延しているという話も耳にするので、わざわざ海外に行ってまで参加するのは敷居が高いナァと感じていた。そんな時、今回の日本での開催を聞きつけ、また以前から聴きたかった Zedd も出演するということで、これはいい機会だと当日券を握りしめて駆け付けた次第。
会場
この手の EDM フェスの特徴としては、とにかく設備や美術にカネがかかっていることが挙げられる。大音量のスピーカーや巨大なディスプレイの上に「おとぎの国」のような世界観を構築して、来場客の非日常感を盛り上げるための様々な仕掛けが凝らされている。
また、これはフォトジェニック(写真写りの良さ)を重視しているということでもあるようだ。この辺は、口コミでの拡散を狙った、いかにもインスタ世代らしい施策と言える。以下の動画が今回のトレイラーだけど、雰囲気は掴めるかと。
システムとしては、「踊ってみた」しかない超会議だと思えばよい。つまり、入場した後は3つある野外ステージのどれを見に行ってもいいという仕組み。出演者としては海外の人気 DJ を多数取り揃える一方で、一日目には中田ヤスタカときゃりーぱみゅぱみゅも出演していたらしい。
会場内を回ると各所にこういう装飾が置いてあり、夜はライティングされて雰囲気を盛り上げる。あと、写真の真ん中に映っているように仮装してきた人たちが結構いて、あちらこちらを闊歩している。
各ステージの様子を紹介しよう。まず、第一ステージは千葉マリンスタジアムの中に構築されてて、巨大なフクロウの像が観客を睥睨する荘厳な作りになっている。一方、第二ステージは海岸線沿いの砂浜にあって、DJ ブースの後ろに巨大なディスプレイが組まれており、演奏と同時にこれを活かした演出が行われる。
普通のコンサートと違うのは、ステージ後方の VIP エリアを除いて指定座席とかはないので、出演者のプレイが始まるとみんなワーッと DJ ブースの前に集まってきてこういう騒ぎになる:
…うーん、俺、よくここから生きて帰ってこれたな。*1
そして、次第に辺りが暗くなってくると「光」による演出が本格化してくる。ここからが、出演者的にも演出的にもフェスの本番だと言っていいだろう。
ステージは爆音で包まれ、頭上を何条ものレーザーが飛び交い、何万人という観客がすし詰め状態で踊り狂い、歌詞を合唱する。そんな中で頭をカラッポにしてひたすら恍惚感に浸るというのは、普段はなかなかできない貴重な体験だったと思う。
確かに、混じりっけ無し純度100%のリア充の中に飛び込むことになるので、我々みたいなオタクにとってかなり参加を躊躇する類のイベントなんだけど、周りに合わせていれば大体問題ないし、コミュ力も必要ないのでそういう意味では楽だった。
観客
既に紹介したように、フェスには仮装してやって来ている人たちがけっこう多い。こういう人たちを特集したユーチューバーの動画があったので紹介…するんだけど、肌の露出が多めなので一応閲覧注意。
しかし、ハロウィンもそうだけど、こういう仮装文化っていつの間にか定着したよね。一体どういう経路で浸透したんだろう。あと、動画には海外から参戦してる人がけっこう出てくるけど、これは実際にそうで、パッと周りを見渡すと必ず外人さんが視界に収まるくらいはいた。周りもちゃんと交流してて、全体的に英語スキルが高めだったという印象。真のコミュ力とは言葉の壁を超えるものなのかもしれない。
驚いたのは、観客みんなが流行りの曲の歌詞を全部覚えているらしいということ。DJ は、基本的に自分の曲だけでなく他人の曲を含めてどんどんプレイしていくので、観客は次に誰の何という曲がかかるかは予想できないんだけど、みんなイントロクイズばりに即座に曲名を割り出して大合唱が始まる。隣の人に聞いたところ「クラブの定番曲のベスト盤とかを聞いていればそのうち覚える」と言われたが…。
このように、「パリピ」について我々オタクの側からは「何も考えていない連中」みたいな偏見が広くあると思うが、これはこれでとても熱心なファン文化なんだな、ということが感じ取れたのは収穫だった。
共通点と差異
そんなわけで、今回、一日のうちにこういう両極端のイベントに参加して思ったのは、意外な感想だと思うけど「あれ、けっこう似てるな?」ということだった。
表面的な違いは山ほどあるんだけど、いろいろな場面で既視感を感じることが多かった。これは多分に感覚的なものだけど、実は世間で言われているほど根本のロジックに大きな違いはなくて、表現の手段が違うだけじゃないか、というようなことを思ったのだった(例えばコスプレ好きな事とか)。
まぁ、ウェイもオタクもお互いに鼻で笑いあってるけど(実際そういう発言は今日も現地で聞いた)ベクトルが違うだけで似たもの同士なんじゃないかと思いますけどね。どっちもコスプレや光りモノのガジェット好きだし。 https://t.co/3rZRrit3AT
— Yuta Okamoto (@okapies) 2017年4月30日
一方で、両者の最も大きな違いはビジネスモデルだろう。超会議が、何十もの「趣味」の島を束ねたロングテールモデルであるのに対して、EDC は高々2~3の島に有名アーティストを据えて集客するモデルだ。その結果として、超会議は EDC の倍近く動員することができている。
動員数 | チケット代 | 予想売上 | |
---|---|---|---|
超会議 | 15万4,601人 | 2,000 円 | 約 3 億円 |
EDC | 8万4,000人 | 16,000 円 | 約 13.4 億円 |
ただ、売上を比べると別の面も見えてくる。元々、超会議は「儲ける」ことを主眼にしたイベントではないとされているが、ここ数年は動員数が伸び悩んでいるようだ。一方で、EDC は同じロケーションで(チケット代だけ考えても)4倍以上の売上を叩き出している。そろそろ転換期なのかな、という気もするのだがどうだろう。
越境
リア充文化とオタク文化の越境、という話として、Porter Robinson(ポーター・ロビンソン)というアメリカ人アーティストを紹介して締めくくりとしたい。彼は EDC に出ていたわけではないんだけど、最近も来日公演があって大変すばらしいパフォーマンスだった(同業者からも称賛の声が相次いでいるとか)。*2
彼は、一般的に EDM の文脈で紹介されるアーティストで、世界の人気 DJ ランキング “Top 100 DJs” にランクインする実力者*3。ただ、本人の音楽性は EDM の主流とは少し雰囲気の違うもので、EDM というジャンル自体が「客を踊らせる」ことを突き詰め過ぎて単純化し多様性を失っている、という声が出ている中、次世代の旗手として期待する声も出ている、とかそういう立ち位置らしい。
個人的には、彼の曲の透明感がありつつ、どこか寂寥感を帯びた曲調が好きで愛聴している。そもそも、僕も EDM の主流のガチャガチャした雰囲気は苦手で、どちらかというと彼や Madeon のような曲調が好みなので、僕の EDM に関する知識はわりと偏っているんだけど…。
ところで、彼は日本文化に非常に造詣が深いことで知られている。造詣が深いというか、はっきり言うとガチヲタである。
そもそも、彼が音楽制作を始めたのは、言わずと知れた日本の音楽ゲーム “Dance Dance Revolution” をプレイしたのがきっかけであり*4、他にも彼に日本の深夜アニメの話を振ると熱く語り始めるとか、度々来日してオタク系の DJ イベントに出没しているらしいとか、自分の DJ パフォーマンスで欧米人相手に唐突に アニソンを 流し始める とか、そういう逸話に事欠かない。ちなみに、最近は「Re:ゼロ」のエミリア推しらしい。
楽曲制作の方でも、わざわざ許可を取って好きな声優の声をサンプリング *5したり、ボーカロイドに歌わせたりと趣味に走ってチャレンジを重ねていたのだが、盟友 Madeon とのコラボ楽曲 “Shelter” で、ついに自分の MV のためにアニメ制作を手掛けるに至った。それがこれ:
見てもらうと分かるが、欧米人が作るアニメによくあるような「バタ臭さ」が一切ない。最大の理由は制作に日本のアニメスタジオ (A-1 Pictures) が関わっているからだが、しかし全体のストーリーやキャラクターイメージの多くは Porter 自身のアイデアなんだとか。アニオタ DJ の面目躍如といったところか。
これが世界でどの程度受け入れられたかというと、現在の YouTube の再生数が 1,700 万越えを達成しており、なかなか成功した数字と言えるだろう。まぁ、先ほど挙げた Top 100 DJs 一位の Martin Garrix(彼は EDC Japan 一日目の大トリを務めた)の MV が軽々と1~10億を叩き出す世界なので、それと比べてしまうと見劣りはするのだが…。
とはいえ、日本のオタク文化が海外のオタクにウケている、という話から一歩踏み込んで、世界的なメジャーシーンの側から日本のオタク文化への越境を達成しつつあるわけで、十分に注目に値する試みと言えるだろう。インタビューによれば、Porter は今後もオーディエンスの反応を見つつ、オタク文化の良さを世界へ発信していきたいと考えているようだ。
ただ、翻って日本のオタク文化から世界のメジャーシーンへの越境ということが可能だろうかと考えると、なかなか課題は多そうだ。上で紹介した Porter の楽曲や DJ パフォーマンスを見ると、自分が好きなものを素材として積極的に使っていく一方で、(当たり前だが)内輪ネタ臭は極力取り除かれていることが分かる。それはもちろん、彼の軸足がメジャーシーンにあるからだ。
これは昔から繰り返されてきた話題なのだと思うが、オタク文化は内輪ネタとは切っても切り離せない関係がある。だから、メジャーへの露出を増やすために内輪ネタを排除する、というのは本末転倒な可能性がある。しかし、国内市場が飽和しつつある(参考: コミケの動員数)中で現状の水準を維持する方向は、新陳代謝を失って緩やかな衰退へと繋がる可能性もある。今や、2020年に向けて、様々なことが岐路にあると言うべきなのだろう。
まとめ
今回、超会議と EDC という全く性質は異なるがどこか似た所のあるイベントが並んで開催されたのは、色々なことを象徴していて面白い経験だった。面倒なこともあった(オタクだとバレて絡まれかけたりとか…)が、文化の越境というのはいつも新鮮な驚きがある。皆さんにもぜひお勧めしたい。
JAPAN 🇯🇵!!!!
— Zedd (@Zedd) 2017年4月30日
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